冬恋Crystallize Silver




 寒気を操り幻想郷を飛び回る。寒さを纏って雪を呼ぶ。冬の全てが楽しくて動き回る。
 楽しいからいいのだけれど、あまり他の妖怪は見えない。雪で覆われた景観に活動するモノは殆どいない。
冬がイヤって文句を云われた事があるくらいだから、他の季節だともっと活動的なのかしらね。春夏秋の景色をじっくり見たことはないからわからないけど。
 遭難して息絶える間近の人間は雪に包まれて冬の素晴らしさを最期に実感してくれるけど
「……ああ、雪が暖かい」なんて素直に褒めない上に悟ってすぐ死んじゃうし、ましてや妖怪は季節を気にしないか冬が寒いから好きではないと文句を言う。
寒い凍えるって褒め言葉だと思うんだけどなあ。本当に冬の理解者は少ないわ。
 山の上に溜まっている寒気を平地に流し込んだりして半日も飛び回ってたかしら、やっと私以外が見つかった。
葉でも花でもなく、雪で彩られた樹木の枝に腰掛けているそいつは、腕を組んだり指をくるくる回したりして思索にふけってる。
どうやら氷精みたいね……って、チルノじゃない。考え事をするノットイコールチルノで気づかなかったわ。だってチルノは誰が呼んだかおてんば恋娘。
前の冬も前の前の冬も、ずっと前からその在り方は元気いっぱいのHで、
おそらく他の季節でも変わらないと想像してたから、考え悩むことがあるなんて思わなかったわよ。というわけで、もうちょっと悩んでる様子を見てましょうか。
「こい……コイ……恋ねぇ……うーん、なんだろ。
白黒が撃ってるレーザーは恋とはなんか違う気がするんだけど、自分で恋符って言ってるしあれが恋なのかなぁ」
 恋煩いっていうか、恋とはなんぞやってことみたいね。あらまあチルノが、まあまあ。スキマから北の国の銘菓でももらって食べたのかしら。
「また休むに似たりですか?」
「天狗か。ん……まあ休んでるんだけど、ってなんか馬鹿にされた気がする! あたいだってたまには悩むし考えるわよ!」
「貴女が考え事をしているのを花満開の春以来久しぶりに見たわけですが。なるほど、たまにというのは適切です。
でもその台詞ですと日常的に悩むこともあるように聞こえるので使い方としては詐欺臭いです。言葉のレトリックとは生意気ですよ、妖精のくせに」
「難しい事云ってごまかそうったってそうはいかないよ! それに妖精のくせにってなによ!」
 ごまかされてるごまかされてる。
 無数の氷柱が天狗を狙うけど、あたりまえのように当らない。
冬の寒気に押されて力が発揮されやすい状況でも、一介の妖精にすぎないチルノの弾幕は天狗にとっては軽々と避けられるもののようで、
ひょいひょい避けながら口喧嘩。微妙にあの天狗もチルノといい勝負なんじゃないかしら、別の意味で。
 でも、うーん、もうちょっと悩ませておきたかったかな。面白くなりそうだったのに、冬の寒風をおしのけていきなり変な風がはいっちゃったわね。
天狗が相手じゃしょうがないけれど。しかたないから話をもどしに行くとしましょう。
「今日も元気ね、チルノ。それに新聞丸さん。楽しそうね〜」
「あ、レティ! 違うよ、遊んでるんじゃなくてあたいが考え事してたらこいつが……!」
「あら、何を考えてたのかしら。よかったら教えてちょうだい。相談に乗れるかもしれないわ」
「射命丸文です。記者でもいいですよ、レティさん。というか、出てこないと思ってたのですが……」
 貴女がチルノに話しかけると決めた時にチルノの呟きを聞いて、いきなりインタビューの予定を喧嘩に切り替えたからじゃないかしら。
ああ、寒いのが嫌だからって風を纏って横着するからいけないのよ。寒気がかきまわされてそれはそれはバレバレだったわ。
 私に抱きついて天狗にあかんべーするチルノを撫でながら、クァクァと鳴く肩の鴉を諌めながら、アイコンタクトで天狗とほほほと笑いあう。
まあ、色恋沙汰って感じじゃないものね、この天狗。長生きしてるだろうから本当にそうかはさておき、
そんなの知りませんってネンネな風を装ってるし、性格的に自分は二の次でしょうし。あんまり言うと木っ端のようにされちゃうだろうから言わないけど。
「えっとね、なんかあたいおてんば恋娘って言われる事があるじゃない?
おてんばと娘はなんとなくわかるんだけど、恋って何かなぁって。レティはわかる?」
 う、うーん、おてんばと娘すらなんとなくなチルノに恋について語っても難しそうね……。
もう少しチルノが恋を意識したのかと思ってたから、ちょっと困ったわ〜。でもまっすぐこっちを見て真剣な様子で聞いてきて、本当にいい子ね。
「じゃあ、それはこういうものよって言うのは難しいから、私が知ってる恋を話してあげるわ。私の昔話だけどね」
「本当!? さすがレティ!」
「おや? ちょっと興味深くなったので私も聞かせてもらいますね」
 雪化粧の木に腰を落ち着かせて、私は二人に話し始めた。
「随分前の事なんだけど、そのひとはね、雪のように白い肌ときりっとした口元が印象的な妖怪。
そのひとが近くに来ると冷たい風が感じられて、羨望と共にとても心穏やかになったのを覚えているわ……」
 口元で掌を合わせて、記憶に想いをはせる。
いつも以上に冬の妖怪に似つかわしくない笑顔ですね、なんて言ってる天狗は無視して、あのひとを見ていた自分を思い返す。
「なんだか話もはじまっていないのに、恥ずかしいようなくすぐったいような……レティほっぺた赤いよ、なんでだろ、あたい落ち着かないよ」
「そんなうっとりされるとこっちまで恥ずかしいんですが」
「そ、そのひとがレティの恋だったの?」
 台詞と恥かしそうな表情とは裏腹にわくわくといった風に手帖とペンをいそいそ取り出す天狗と、
身体をもじもじとさせているチルノの問いに微笑みで応えて、気恥ずかしくもある思い出を紡ぎはじめる。
「あれは……そうね、私が季節の妖怪養成学校の生徒だった頃」
「うん! うん!」
「………………うう、チルノさんの顔を見るに、突っ込みは無粋なんでしょうねえ。
もう、わかりましたわかりました、ペンは置きますよ。文々。新聞は真実を伝える新聞ですし」
 天狗が試験も学校も無いだとかそれはひょっとしてギャグでとかブツブツ言ってるけど、まあ置いておきましょう。メモを取るのも止めてくれたし。
 雪まじりの北風が吹きすさぶ中、私はあの頃の事を……


        *****************


「レティさん。貴女は冬の妖怪としては表情がのんきすぎます。雪女さんの冷徹な目を見習ってですね。
……しかられているのになんですかその顔は! 寒・冷・凍がモットーの完璧な冬の妖怪を目指すならば……」
 くどくどとお説教する先生に辟易してたけど、顔は生まれつきだし、のんきって言われてもこういう性格なんだし、
顔に出るのもしょうがないよねぇって左の耳から右の耳だったわ。だってその先生いつも同じようなお説教だったし。
ちなみに教頭先生の白粉婆の時はせまりくる化粧顔に迫力負けして内容忘れちゃったわ。
 あ、聞き流していたからって、気にしていないわけでもなかったのよ。それなりに悩んではいたのよ、冬の妖怪としてちょっとふさわしからぬと云われる自分に。
 クラスメイトの冬妖怪には、それはもう冬を象徴する妖怪たちが揃っていたから。怜悧な表情の雪女さん。ツンとすましたつらら女さん。
見ているだけで震えてくるぶるぶるさん。頭に冷却用のプロペラを持つ雪男さん。
みんな優秀だったから他の季節のクラスからは、さすが冬組お寒いぜ、なんて褒められてたの。
 そんな中で、私は浮いていたわ。別に阻害されていたわけじゃないけど、自信が持てなくて自分から一歩引いていた。
 当時はわかってなかったけれど、澱のようにストレスが溜まってたんでしょうね。のんきに夜遊びする感覚で、けれど一人で、毎夜お酒を飲みに出かけていたわ。
 お酒を出す店は気分で適当に決めていたけど、その日はショットバーだった。
 1時間くらいカウンターで考え事をするでもなく呆っと飲んでたら、隣席にそのひとが座ったのね。そのひとが帯びていた日本刀を置いて席に着くと、店主は水の入ったグラスを出して、そのひとも無言でちびちびその水を飲んで……変わった妖怪だなあって思って、つい見てたのよ。
 そしたら気づかれちゃって、声をかけられたわ。
「寒うござんすね……」
 その身にまとった寒風から、そのひとが冬に連なる妖怪だってことはすぐわかったわ。寒いって言葉に険もなかったしね。
「ええ、そうですね。とっても寒いです。もう冬ですもんね」
 だから嬉しくて、つい満面の笑顔で頷いちゃった。いつもそれで怒られたりからかわれてたりしてたのにね。
 笑顔で返した私を見て、そのひとはちょっとびっくりしてたみたい。その様子で私は、ああまたやっちゃったって思ったわ。
 結局それきり話もしないで、ゆっくりと時間をかけて手元の水を飲みきったそのひとは出て行っちゃったんだけど、いなくなってからふと思ったのよ。
 笑顔でやっちゃった、と思ってからそれなりの時間隣に座っていたのに、その間ちっともいたたまれない気分にはなってなかったのね。
開き直ったわけでもなくて、別に問題なくお酒を楽しめてた。お互い無言だったのに。

 昨日の気分が不思議で、しかも水だけ飲んで帰る変な妖怪だったからつい翌日も同じ店に行ってみたの。
 今度は既にそのひとが店内にいて、また水の入ったグラスを傾けていたわ。隣に座って、昨日のように元気がすぎないように声をかけてみたの。
「寒いですね」
「ええ、冬でござんす……」
 結局それっきり。また会話も無く静か。そのひとは水を、私はフローズンカクテルを飲んで、時間が過ぎていったわ。

 三日目も同じ、四日目も同じ……すぎるにつれて、とても楽しみに思えてきて、夜になるのが待ち遠しくてしょうがなかったわ。
 自分より冬らしい雪女さんを見てすごいなあと他人事のような感想を抱いて、ぶるぶるさんの姿から震えることになる人間を想像して関心する……
そんな事はあったけれど、うらやましいとかそういう風になりたいとは思ってなかった。
けれど、寡黙で静かに、しみじみと冬の寒風を纏っているそのひとの姿は、私もこうありたいと思わせたのよ。

 でも、五日目は会えなくて……ずっといつもの席で一人で飲んでいたけれど、お店が閉まる頃になって後悔したわ。
 私はここ数日が楽しかったけど、あっちはどうなのかよく考えてなかったのよ。
いくらお説教されても、からかわれても落ち込んだ事はなかったのに、その日は沈んだ気分で家に帰ったわ。
 悪くない気分だったからって、無言でずっと隣にいるなんてなんて変な妖怪だったんだろう、私は。
そう考えてるともう悪い方悪い方に想像が進んでいくの。
水飲んでるとかそういう問題じゃなく変なのは私だったし、水だけ飲んで帰ってたのも私が邪魔だったからかもしれないじゃない、とかね。
 会えるかわからないけれど夜にあのバーに行って、確認して、迷惑をかけていたなら謝ろう。そう思ったときはもう朝になってたわ。随分長いこと悩んでたのね。
 早く夜になって欲しいと気もそぞろで、いつも以上にお説教を聞き流して居眠りして、さらに怒られたわねぇ。自分の事ながら、しょうがない妖怪だわ。
 それで夜になって……ええと、さらにしょうがないんだけど、その日は緊張してたから、お酒の勢いを借りようと思っていつも以上のペースで飲んでたのよ。だから酔いがまわっちゃって、ね?
「ここ座りなさい、ここ。隣、私の隣」
 運良く、そのひとが入店して会うことが出来たのに、第一声がそれだったのよ。ええ、座ってくれたからよかったわぁ……。
「あれ? なんだかいつもより白いわね〜」
「雪で、ござんす……」
 いつもの刀といっしょに笠を置いたそのひとは、肩や笠に雪を積もらせていたのよ。
「昨晩、最後に舞い散る枯葉を、この刀で初雪と致しました」
「は、初雪を貴方が!?」
 グラスを持ちながら静かに頷くそのひとを見て、私は愕然としてた。私という種は寒気をあやつり、雪女は吹雪をおこし、つらら女はつららの形成、雪入道(一本だたら)は雪に足跡を残す……どれも自然現象のコピーか、自然現象が生んだ状態を操って変化させるもの。それなのに、そのひとは自然がおこす初雪という現象を司っていると云う……とんでもない大妖怪か上位精霊かってあたふたしちゃったわ。
 血の気が引いた思いで、最初の目的を思い出して謝っちゃったわ。
カチカチに緊張して誤る私に、そのひとは首を横に振って、グラスの水をちびりと飲んで教えてくれた。昨日店に現れなかったのは枯葉を切っていたせいで、決して私を疎んじてのことではないって。
 そう聞いたら一気に安心しちゃって、今までからは考えられないくらい会話をしてくれてたから、これ幸いと自分の現状を愚痴っちゃったのよ。
「明日また絶対怒られるんだわ。私は冬の妖怪としてふさわしくないって言われるんだ。
ふさわしくなくても私はこうなんだからしょうがないじゃない……うう……」
 しかも舞い上がってお酒のペースをあげて。言葉は殆どなかったけど、合間合間で頷きを返してくれて、そのひとは私の愚痴を聞いてくれたわ。いつもグラス一杯だけなのに、二杯目を手元に置きながらね。終いには……その、完全に絡んじゃってたけど。
「このお酒のアクセサリの果実って、初夏あたりから採れるもので、冬に出来るものではないそうじゃない。
でもこうして凍らせて冬まで持ち越されて、お酒が美味しく呑めるの。凍らせるってすごい事だと思うわ。冷たいは正義なのよ。
冬は雪を降らせて霜柱を立たせて、すごいの。冬すごいの。すごすぎ。でも、すごすぎて……私は私が冬の妖怪って事が重いの。私は全然すごくないの……」
 愚痴を通り越して泣き言になって、うーとか、あーとか、変に呻いてる私を見ながら、そのひとはまた首を振ってくれた。
「確かに冬に連なる妖怪は好感の目で見られる事ほとんどなく無く、人間に限らず他の妖怪にすら疎まれることも」
「そうなのよ〜……」
「冬という季節は忌避するものではないというのに。冬とは樹木が眠り、獣が眠る安息の季節。人間すら、土を耕す手を休める。春夏秋と並ぶ、大切な季節だというのに……失礼、酔いがあるようで益体も無い事を」
「うんうん、すごくいい事言うわ〜。でも酔いって、貴方はいつも水じゃない。ちょーだい、チェイサーが欲しかったのよ」
 止める間もなくそのひとのグラスをひったくって一気に飲んじゃったんだけど、水じゃなくて日本酒だったのよ。
ほら、バーで冷酒とか普通思わないし。その日本酒でそれまでの深酒にとどめをさされて、倒れちゃった。
「だが、だからこそ雪女の冷徹なまなざしだけではなく、貴女のような柔和な存在……冬を楽しみ受け入れるような妖怪がいてもいいと、そう思う次第にございます……」
 カウンターにつっぷして朦朧となって……肩にそえられた手の冷たさだけを感じながら、意識が薄れていく。
その時のそのひとの言葉は私の中に染み入ってくるようだった。
 その後の記憶があやふやなんだけれど、私はそのひとの背中に背負われていたの。
半分起きてて道を指示してたらしくて、初雪の中でゆっくりと、私の家へ向かって飛んでいた。そのひとが口笛を吹いていて、冷たく柔らかい音色を心地よく思いながら、初雪よりも冷たいその人の背中でまどろんでいたわ。

 翌朝、ものすごい頭痛と昨日の醜態を思い出して後悔したけど、すごく頬が緩んじゃってね。
すごい人と知り合えた事の喜びで一日中上の空だったわ。まさに冬が来たって感じね。
 お説教してた先生が「……今日はもういいです」って投げ出すくらい。ずっと笑ってたわ〜。
昨日は散々だったから、今日は落ち着いて話をして、色々教わったりしようって考えながら。
 でも、夜になって会いに行こうとしたら、むこうから家を訪ねてきてくれたのよ……旅装束で。
 この地域に北風と初雪を届けたから、別の地へ行くって。
本当は昨晩飲んだら即出立の予定だったけれど、私のおかげでここ数日のお酒が楽しかったから、一言お礼が言いたかったって。
 私はそのひとが居なくなることがショックで、呆然としながら頷いていたわ。昨日と逆ね、言葉が出てこなかった。
「縁があれば、また北風と共に……寒うござんすね」
 最後の別れの挨拶の時、そのひとが今までずっと凛々しく結ばれていた口元で笑ってくれたの。
 言葉も無く手を振って見送りながら涙がこぼれてきた。段々小さくなっていくそのひとが見えなくなって、やっと気づいたわ。
私はそのひとに憧れて尊敬もしていたけど、それ以上に恋をしていたって。そのひとが去ってしまって悲しいんだって。
 そのひとはあてのない一人旅を続けていると昨日言っていたから、もうずっと逢えないかもしれないと思ってあわてて空に飛び上がって追いすがろうとした。
けれどとっくに見えなくなっていたし、結局追いつけなくて……。
「貴方の言葉……冬が春夏秋と並ぶ大切な季節だってこと、冬を楽しみ受け入れるような妖怪がいてもいいってこと……
忘れないわ! それで、それでっ……私はあなたが褒めてくれたままの私で、立派な冬の妖怪になる……絶対なる!」
 雪が降ってきて、北風が吹いて、とても冷たくて気持ちいい空で、私はまた泣いたわ。

 その後、私は相変わらずのんきでおちこぼれで、春の妖怪を目指せばいいじゃないなんてからかわれることもあったけれど、がんばったわ。
北風が吹くたびにそのひとが応援してくれている気がして、がんばれた。
雪をみるたびにそのひとに胸を張ってまた会えるような冬の妖怪になっていようって、そのひとが褒めてくれた笑顔のまま、のんきなままで、がんばれた。
 めでたく卒業した私は、こうして冬の黒幕として今日も寒気を操っているのでした……


        *****************


「はふぅ……その、えっと……レティはそのひととまた会えたら気持ちを伝えるの?」
「どうかしらね、数年前にスキマ妖怪からそのひとの事を聞いたことがあるけれど、
外の世界でわりと有名らしいから、幻想となってこの幻想郷に入ることはないでしょうし」
「一人旅してるなら、わかんないよ! ふらっとここに来るかもしれないじゃない! ……もう会えないなんてレティがかわいそうだよ」
 話を逸らされた事に気づかず、チルノは励ますように言ってくれる。
「ありがとう、チルノ」
「はじまったと気づいた時に終わってしまった恋……なんかいろいろ突っ込み所はありましたが、レティさんの過去にそんなことがあったんですねぇ……」
 ひとしきり頷いていた天狗は、ふとチルノに目を向けた。
「で、レティさんの恋を聞いて、悩んでいた事へのヒントになりましたか?」
「あ、そっか……えーっと、全然!」
 ま、そうでしょうね。
「でも、あたいこれだけはわかったよ」
 ふふん、と胸をはるチルノは、とくい満面な笑顔で言ってくれた。
「恋って、きっと大事で素敵で、いいことなんだ! どういうものかはよくわからないけど!」
「あら嬉しいわ〜」
 恋に恋せよ恋娘、ね。
「大丈夫。私に北風がふき込んだように、いつかチルノに素敵な恋が訪れるわ」
 冬の北風が、冷たくそして柔らかい口笛の音色を含んで、今日も寒気を運んできてくれる。
 ありがとう。あなたのおかげで、私は冬を楽しんでいるわ。

to be next phantasm

ヒュルルルルン
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